「失踪宣告」を知るまえに、まず「認定死亡」との違いについて知っておく必要があります。
「認定死亡」とは、水難、火災、爆発など危難に遭遇し、遺体の所在は不明であるけれど、死亡していることが確実である場合に、一定の官公署の証明書によって戸籍簿に記載する制度(戸籍法89条)です。
一方「失踪宣告」は、死亡の証明がされず、なおかつ認定死亡とするだけの事実もない場合に、残された家族などのために、行方不明者の法律関係を確定させる制度です。
「認定死亡」も「失踪宣告」も相続が開始し、生存配偶者との婚姻関係が終了します。
「認定死亡」・・・危難に遭遇し、死体が見つからないけれど、ほぼ確実に死亡している場合
「失踪宣告」・・・行方不明者が、いまのところ死んでいるのか生きているのかわからない場合
ということになるでしょうか!
「失踪宣告」には「普通失踪」と「特別失踪」にわけることができます。
30条1項を「普通失踪」、30条2項を「特別失踪」と一般に言います。
注意すべき点は、普通失踪が7年間の期間満了した日を死亡日とみなされるのに対して、特別失踪では、1年間の期間満了時点ではなく、危難の去った日が死亡日とみなされます。
失踪の起算点 | 失踪期間 | 認定される死亡日 | |
---|---|---|---|
普通失踪 | 最後に不在者の生存が確認された日 | 7年 | 失踪期間満了の時(日) |
特別失踪 | 危難の去った時 | 1年 | 危難が去った時(日) |
2、失踪宣告の取消し
失踪宣告を受けている者が突然帰ってきた、どこかで生存していることがわかった、または宣告により死亡したとみなされた時期と異なる時に死亡していることがわかった場合には、利害関係人の請求により家庭裁判所は失踪宣告の取消をすることになります。
その結果、失踪宣告により確定した法律関係は、元の状態に戻ることになりますが、失踪宣告を信じて取引をした者が不測の損害を被る恐れがあるので、条文上制限をもうけています。
「その取消は、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。(民32条1項後段)」
ここで言う「善意でした行為」については、当事者双方の善意(失踪宣告が事実と違うことを知らないこと)が要求されるというのが判例の立場です。
例えば、失踪者Aの土地を相続したBが、その土地をCへ売却した場合、BとCの両方が善意でなければ、Cは土地を取得することはできません。
(一般に、取引の安全を考えれば、相手方が善意であれば良いのですが、この場合、失踪者のことを考えて、行為の当事者双方に善意を要求しているようです。)
参考として、
失踪者Aの土地を相続したBが、その土地をCへ売却し(BとCは善意)、つづいてCから悪意のDに転売した場合、Dは、失踪宣告の取消があっても取得可能です。善意のBとCを保護するためです。
一方、失踪者Aの土地を相続したBが、その土地をCへ売却し(BとCは悪意)、つづいてCから善意のDに転売した場合、判例の立場では、Dは取得できないことになります。
また、
失踪者Aの配偶者BがCと再婚した場合、BとCが善意であれば、BCの婚姻は有効ですが、BとCの両方あるいは一方が悪意であると、BCの婚姻は重婚となるので後婚の取消原因となります。
民32条2項では、「失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。だだし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。」となっています。
失踪宣告によって直接財産を取得した者、例えば相続人などは、失踪の取消によって、現に利益を受けている限度(現存利益)を返還することになります。
この場合、善意であっても返還しなければなりません。これは失踪宣告によって失踪者から直接権利を取得していて、失踪宣告を信じて取引で財産を取得したのではないので、保護する必要はないためです。
では悪意の場合はどうなるのでしょうか?善意の場合と同じように現存利益のみを返還すればよいのでしょうか??それとも不当利得の悪意の受益者(民704条)となって利息を付して返還することになるのでしょうか?
最後に、
失踪宣告の相続で取得した財産は、失踪者の生存が確認された場合でも、失踪宣告が取り消されるまで返還する必要はありません。
失踪宣告で認定された死亡日以外の日に死亡していることが確認された場合、失踪宣告が取消されなければ、死亡日の変更はできません。